ジョンミューアトレイル単独全踏破紀行

12年になるカナダ生活から得たモットーは、「人生において転ぶことは避けられぬ、転んだあとにどう起きるかどうかが、生きる力なのだ!」というわけで、35歳独身、夏に突然彼氏に別れを告げられ向かった先は、大学時代から夢見続けること15年、カリフォルニア州のジョンミューアトレイル(JMT)。バックパックとわが身一つで、たった一人、山越え谷越え、370キロを超すロングトレイルを歩き抜いた日々、たくさんの人と分かち合いたいとの思いで、始めました。きっと、何か良いものをお届けできるだろうと、願いをこめて…。
本を綴るようなスタイルで書いていますので、はじめての方は、最初の記事から遡ってお読みください。

単独行


ひとりで、ゆく


ひとりで、生き延びるための最小限の荷物だけを背負って、大自然の中を歩いてゆく。


ありのままの自分でいたいから

偽らずに、ほんとうの自分である瞬間
ほんとうの自分にならざるを得ない場所
大自然の中に、ひとりで、出かけていく


ほんとうの自分って、なんだっけ
おぎゃあと泣いて、母の胎内から、ありったけの祝福と愛に囲まれ、この世界にやってきた瞬間は、ほんとうの自分以外は存在しなかったはずのに、
その記憶を思い出せることもなく、
いつの間にか、周りが思う自分、自分がこうありたいと思う自分、こうでなければならないと思い込んでいる自分、しょせんこの程度の自分、と、ほんとうでない自分ばかりで、日々が満ちている

ほんとうの自分って、まだあるのかしら
どこにいるのかしら
心の奥底、頭の後ろのほう、小指の先っぽ、横隔膜の真ん中の穴、
自分でも、自分がもっていることを忘れている、近いけれども遠い、そんな場所のどこかに、
ほんとうの自分は、見つけてもらえる日を、ひたすら待ち続けて、隠れ続けている、忘れ去られたかくれんぼうの子ども


働いていれば、まわりがこうであるはず、と期待する自分がいる
友人は、家族は、「この人はこういう人だ」と思っている
自分でも「自分はこういう人間だ」と思っている
その役割を、その仮面を、それが自分なのだと思い込んで、誰もが日々を生きている
人生が終わる、その最期の瞬間まで、ほんとうの自分ではない自分を演じて、このかけがえのない、たった一つしかない自分という存在を生き抜くことなく、体を去っていく


こんなに悲しいことが、あるだろうか


だから、ひとりで、ゆく
大自然の中へと身をゆだねる
演じねばならない相手は誰もいない
生きて、呼吸して、食べて、歩いて
明日もそれを繰り返す


水は流れ、山々は険しく、青空は澄み渡り、
そして雑音が存在しないその世界で、唯一うるさいのは、自分の頭の中の声
それにうんざりさせられつつ、ときに無視しつつ、ときに気づきがありつつ、古い傷や痛みを消化しつつ、日々歩いていく
ほんとうの自分が、じわりじわりと、表にでてくる、よみがえる

それが、単独行