ジョンミューアトレイル単独全踏破紀行

12年になるカナダ生活から得たモットーは、「人生において転ぶことは避けられぬ、転んだあとにどう起きるかどうかが、生きる力なのだ!」というわけで、35歳独身、夏に突然彼氏に別れを告げられ向かった先は、大学時代から夢見続けること15年、カリフォルニア州のジョンミューアトレイル(JMT)。バックパックとわが身一つで、たった一人、山越え谷越え、370キロを超すロングトレイルを歩き抜いた日々、たくさんの人と分かち合いたいとの思いで、始めました。きっと、何か良いものをお届けできるだろうと、願いをこめて…。
本を綴るようなスタイルで書いていますので、はじめての方は、最初の記事から遡ってお読みください。

ロングトレイルを支える装備、道具たち

旅準備というのは、ときにストレスでもありますが、ときには旅そのものよりも、心躍るわくわく感に満ちた時間だったりもします。やがてやってくる夢の旅に期待を膨らませ、調べものをしたり、買い物をしたり、仲間と情報をわかちあう時間。ひとたび旅が始まってしまうと、充実感とともに、しかし旅そのものを生きる、という、非日常な時間やトラブルに見舞われたりしているうちに、あっという間に終わりがきてしまうもの。「ああ、このままずっと準備期間が続けばいいのに!」なんて思うこともしばしばです。皆さんはどうですか?


ロングトレイルにいざ挑もうというとき、準備段階で大事な項目の一つが、大自然の中を歩き、生き延びるための命綱である装備。クライミングのようにたくさんの道具が必要なわけではなく、歩くという行為自体は、足に合う良い靴があれば、それだけでとりあえず慣行できますが、ここに数週間という時間がかかわってくると、電気も水道もトイレも存在しない、原生自然の中で生活し、生きていくための道具が必要となります。
テント、寝袋、食料、調理道具、最低限の着替え、日差し対策、浄水器など水を得るための道具、そしてもちろんこれらを運ぶための、ザック。
そして単独行なので、すべてを一つのザックに収め、ひとりで運ぶのだ、ということを念頭に置いておかなければなりません。


シンプルかつ機能的であることが、一番のテーマであるアウトドア用具ですが、車や携帯電話、家電製品などと同じで、用具会社がしのぎを削り、日進月歩している世界です。特にここ10年ほどを振り返ると、調理のためのストーブの効率化や、テント、寝袋の軽量化を促す技術の進化は、目覚ましいものがあります。愛着のあるいくつかの道具は、ワンゲル時代からずっと使い続けていますが、最近5年間ほどの期間に、テントとストーブは新しいものを購入しました。テントは超軽量で設営が簡単なMSRの2人用のモデルHubbaHubba、ストーブはほんの数分で水が沸かせる、日本でも定番になっているジェットボイル。
ソロキャンプ目的で買っているにも関わらず、重量が少しかさむ2人用テントをあえて買っている理由は、荒天のときを考え、すべての装備をテント内に入れられるスペースが欲しいのと、あとはやはり、相変わらず赤貧生活のため、このテントで、パートナーとクライミングに行くときにも使えるように、という理由があります。
用途に合わせていくつもテントが買えれば、もちろんそれに越したことはありませんが、そんな贅沢が許されるアウトドア人はなかなかいないですよね。逆に、お金があって、ぴかぴかの最新装備は色々持っているけれど、時間が取れなくて、アウトドアに実際に出かけることがなかなかできない、という人もたくさんいます。
仕事、お金、休暇と遊びのバランスをいかに取っていくか、というのは豊かな人生をおくっていくために、欠かせないスキル。わたし自身も決してバランスが取れているわけではなくて、休暇と遊びは異常なまでに充実していますが、その分銀行口座はいつも崖っぷち。四苦八苦しつつ、それでもなんとかシンプルかつ不自由ない生活が送れているので、今から何十年か後、死の床にあるときに「ああいい人生だった」とうれしいため息とともに旅立てれば、それで人生大成功、だと思っています。死の瞬間にどれだけ遺産の金額があるか、ということよりも、どれだけよい記憶、インスピレーション、たくさんの人の心へ良き影響を残せるか、ということに焦点をあてていきたいと思うのです。残される子どもたちには、遺産ゼロというのは申し訳ないですが、しかしわたしの場合、子どもどころか、現時点では独身ですし、そもそも彼氏に捨てられたばかりで独り身ですし、遺産をどうこう気にする環境でないだろう、とつっこみを入れる自分がいるのも、また事実。とりあえず今は、いつか未来に訪れる、と期待して待っている未定のしあわせよりも、今生きているこの瞬間のしあわせを、全力で享受することが、自分の使命だと思っています。
”今この瞬間”に生きていて、しっかりと目と心を開けば、”今この瞬間”に既にたくさんのしあわせがある。それなのに、遠い未来のしあわせばかりを追いかけ続けて、いつの間にか人生が終わってしまったのでは、本末転倒です。


テントの話が大幅にずれてしまいました、装備に話を戻しましょう。ジェットボイルは、「水を沸かす」という機能に特化したストーブで、火力が強すぎるので、料理をしたい人にとっては全く役に立たない代物です。わたしのジェットボイルは、Minimoという名前で、新しいとろ火ができるモデルなので、買ったばかりのときに喜び勇んで、お米を試しに炊いてみたら、新品のストーブにいきなり永久保存版の焦げをつくってしまいました。バカでした…。けれども、水で戻す乾燥食料を主とするロングトレイルでは、ジェットボイルが大活躍です。軽いし燃費がいいですし、ジェットボイルのセット一つで、ストーブ、鍋、お皿すべてが済んでしまうので、限られたザック内のスペースの節約にもなります。食料計画については、次の記事で詳しく書きますね。


そして今回JMTのために、限られた予算の中で、意を決して、新調することにしたのが、ザックとマットです。
何を隠そう、わたしは今までバックパッキングをしているときは、「軽量化」「必要最低限」ということに無頓着でした。最近定番の「ウルトラライト」なんて、なんのことやらさっぱり、というのがJMTまでのわたしです。去年の秋に、JMTの練習をかねて行った、カナダ西海岸のウエストコーストトレイルでは、お楽しみグッズという名で、どれだけザックに余分なものが入っていたことか…。確か分厚いペーパーバックの本が2冊も入ったいたような。ザックに入っているだけで一度も使わなかった、「あったら便利かもしれない」道具も一つ二つ、いや三つ。わたしより大きな重たい荷物を背負っている人は大勢いましたが、これは、わたし自身を含め、いわゆる「ウルトラライト」とは対極を行くスタイルです。「念のため」や「お楽しみのため」で、極限まで膨らんだザック。さくさく行けば5泊6日で歩ける距離を、あえて6泊7日かけて、のんびりキャンプ時間を楽しみながらの旅でした。つまり、今までのわたしにとって、バックパッキングとは、重たい荷物を担いでふうふう頑張って歩いて、歩く時間は疲れるもの、というのが前提、そしてひとたびキャンプ場についたら、のんびりリラックス、100%楽しむ時間、という流れでした。重たくて、しかも体に合っていない古いザックで、いつも2日目には肩が痛くなり、旅の後には腰骨に痣ができているのが当たり前。2日間から1週間程度の旅なら、体力には自信がありますし、マゾっけがあることにも助けられて、それでも別にいいのですが、さすがにいままで歩いたことのない超長距離となりますと、そんな状態で元気に歩き続けていけるものか、疑問です。
そこでまずは買ってみました、北米でウルトラライトバックパッキングの教科書のような存在になっている、Mike Clellarn著『ultralight backpacking tips』。手書きの楽しいイラスト入りで、153項目にわたって、いかに装備を軽くするか、というテクニックが事細かに紹介されているのですが、この本がわたしのバックパック概念を変えました。
荷物を軽くするための提案がこれでもか、これでもか、と出てくるのですが、中には「歯磨き粉のチューブは、余分な重さ。歯磨き粉を乾燥させて、一回サイズにスライスして、ジップロックに入れていくべし」とか「ナイフは持っていく必要なし!剃刀の刃を紙に包んで持ち歩くべし、これでほとんどの用事はすむ」さらには「トイレットペーパーはいらない。水で洗うか草などを利用する(どうやってウオーターボトルの水を使って効率よくお尻を洗うか、もしくは地面の草にこすりつけていくか、という素敵なイラスト付き)」という提案もあり、全ての項目がほんとうに役に立つかどうかは、かなり疑問なのですが、わたしの考えを変えた一項目は、「Traditional campers find their comfort in camp only after the crippling backpack is jettisoned off their back. Ultralight campers find their comfort on the trail」というもの。「昔ながらのハイカーは、テントを設営し、重たい荷物を下ろして始めて快適になるが、ウルトラライトハイカーは、歩く行動そのものが快適である」
ーなるほど!歩く過程を楽しむ過程にするのか。歩くこと自体から、苦痛と労力を少しでも軽くすることがロングトレイルを歩き抜く要だ!
装備と食料準備のテーマは、これで決まり、本邦初のウルトラライト!そうとなればとことん突き詰めるのが、わたしの性格です。装備はできるだけ最軽量のものを用意する、そして持っていくか持っていかないか、迷ったものは一切持っていかない、「あったら便利」「念のため」の装備も一切なし。
体に合う80リットルほどのザックを新調するつもりでしたが、フェイスブックのJMTコミュニティのアドバイスにもしたがって、60+10リットルとかなり小型のザックを購入しました。ドイツのバックパックメーカー、ドイターの女性用モデルです。40リットルの女性用モデルを長年愛用していて、体に合うことが分かっていたので、これは迷いがありませんでした。ザックとブーツについては、「これがよい」と一般に言われている批評よりも、とにかく自分の体に合うか合わないか、という点に尽きます。
実はトレッキングブーツを持っていないわたしは、ウエストコーストトレイルには、クライミングのアプローチシューズで行きました。これが足に合っているようで、1週間の旅で靴連れが一切できなかったので、JMTもこれで行くことに決めていました。


大失恋の痛手を引きづりつつ、限られた予算と、短期間の準備期間に追われ、血眼で走り回っているわたしの背中をそっと押すように、日本の両親からは新しいモンベルの寝袋のプレゼント、地元のアウトドア仲間から、折りたためる最新式のブラックダイアモンドのトレッキングポール、自分でドライ食料を作るための食品乾燥機、おフルのデジカメ、そしてシエラネバダで必ず必要になる、食料を運ぶためのベアーキャニスターなど、数々の装備が差し入れられました。なんとありがたいことでしょう。家族や仲間の愛情に恵まれ、いつの間にか、単独行とはいえ、自分ひとりのために行くのではなく、何かよいものをみんなに持って帰ってこよう、この貴重な体験と思い出をなんらかの形で、きっとシェアしよう、と強く思うようになりました。このブログを始めた大きな理由のひとつが、それです。失恋とともにひとつの大きな愛を失ったわけですが、JMTに行くことが決まった瞬間から、出発するその瞬間まで、そして帰ってきた今も、自分を包む、失った愛よりも何倍も深く大きな愛情に気づかされる日々です。


それでは以下、参考までにわたしとともにJMTを踏破した装備をリストアップしますね。



<歩くために必要な装備>

  • トレッキングブーツ Le Sportviaのクライミングアプローチシューズ (写真には載っていません)
  • ザック ドイターのACT LITEの女性モデル
  • トレッキングポール ブラックダイアモンドの超軽量の折りたたみ式のもの(普段ポールは使わない人でも、ロングトレイルでは必ず持っていくことをお勧めします)
  • ガイドブック 『John Muir Trail -The essential guide to hiking America's most famous trail 』Elizabeth Wenk著
  • 地図 色々出ていますが、わたしは一番コンパクトなナショナルジオグラフィックの冊子型になっているものを使いました。これはヨセミテ国立公園や、途中通過するリゾートなどで買うこともできます。コンパスは持っていきませんでした。雪のない時季なら、JMTは下手すれば地図もいらないくらい、しっかりトレイルと標識が整備されています。でも一日の行程を計画&チェックするにおいて、ガイドブックと地図は必須です。


<キャンプ用具>

  • テント MSR HubbaHubba
  • 寝袋 モンベルのアルパインダウンハガー800#2 (マイナス6度まで対応できる超軽量モデルです)
  • マット K Lymit Static V2 (これまでサーマレストの分厚い快適なモデルを使っていたのですが、軽量化のため、思い切ってサーマレストは売っぱらい、最近話題の新ブランドの超軽量マットを購入してみました)
  • ヘッドライト ブラックダイアモンドのLEDの小さなモデル

<洋服>
必要最低限のもののみ!ということで、下着靴下は着ているものと予備と2枚だけ、洋服も着ているものと予備と合わせて2セットだけ、常に洗いながら交互に着ていくことにしました。
スポーツブラは一枚のみ、もう一枚は川や湖に入ることも考慮して、水着を下着に兼ねます。
トレッキングパンツは、ジッパーでハーフパンツになるものが一枚のみ、もう一つはセールで手に入れたばかりの、トレッキングスカート!シエラネバダの気温は、日中は9月でも高いので、これは重宝するだろうとの目論見です。実際気温が高くて毎日暑かった最初の半分は、ほとんど毎日これを着ていました。
上はタンクトップが2枚と、極薄の長袖が一枚。歩いている最中は温かいだろうと見越して、中間着は一切なし。いざキャンプを設営して夜を過ごすときのために、冬用のダウンジャケットを用意しました。ORというブランドの、非常にコンパクトになるグースダウンのものです。
それからユニクロのヒートテックタイツとパタゴニアのR1シャツを寝巻として持っていきます。ほんとうに突き詰めてウルトラライトを慣行している仲間には、寝巻を持っていく!?そりゃウルトラライトじゃないよ!と言われつつ、これは持って行って本当によかったと思っています。一日汗だくになって歩いた後に、乾いた(比較的)清潔なウェアに着替えると、それだけでほっとできる、体が緩む、その快適度が違います。
そしてもちろんレインジャケット。シエラネバダの夏は、ほとんど毎日晴天が続くことで有名ですが、ひとたび雨雲が集まると、1時間ほどのどしゃぶり、もしくは雷雨になります。しかもわたしが目指す日程は9月、みぞれや雪が降るだろうことも覚悟しなくてはなりません。JMTを歩いていると、軽いポンチョで行動しているハイカーを大勢見かけましたが、ここは譲れません。GORE-TEXのレインジャケットは、風よけ、寒いときのもう一枚としても、とても重宝しました。
最後の最後まで悩んだのがレインパンツですが、ロングパンツを一枚しか持っていかないことも考慮して、防寒着を兼ねてて持っていくことにしました。結局雨のために履くことはありありませんでしたが、標高が上がる後半のキャンプでとても役立ちました。
あとはもちろん日よけの帽子と、薄い手袋。そしていろんな場面で多用途に活躍するバフを一枚。


<調理器具>

  • ストーブ ジェットボイル Minimo (ガスボンベはひとつをザックに入れ、もうひとつを食料とともにデポすることにしました)
  • 浄水器は、今まで旧型のポンプを使っていたのですが、ポンピングが面倒くさいのと、ポンプ自体がかなり大きいので、今回steripenという、数年前インドに行くときに買った、紫外線で水の中のバクテリアを殺す、最新式の道具を使うことにしました。これについては、また改めて詳しく書きます
  • スポーク(スプーン、フォーク、ナイフが一体になったもの)
  • 小さなステンレスのカップ 
  • ナルゲンボトル 1リットル (ザックにぶらさげ、歩いている最中の水補給用)
  • プラティパス 2リットル 折りたためるウオーターバッグ (キャンプスポットでの水の調達、調理用、そして、いくつかある水があまりない区域で多量の水を運ぶため)

<コスメ関係>

  • 日焼け止めリップクリーム、サングラス(日差しがきついシエラネバダで行動するにあたって、これは命に関わるもの、必ず持っていくべきものの一つです)
  • 視力がとても悪いので、コンタクトレンズと眼鏡の一式と小さな鏡
  • 歯ブラシ歯磨き粉(旅行用の小さいもの)
  • 爪切り (案外忘れがちですが、長距離の歩き旅では必ず持っていくべきもの)
  • 体調が落ちた時のための、わたしの御用達、オリーブエキスカプセル
  • カミソリ(だって女の子ですもの、いくら山の中の一人旅とはいえ、わき毛ボーボーはいただけません)
  • 生理用品 (いえ、ほんと、女の子ってのは大変です。わたしはゴミが一切でないディーバカップを長年愛用しています)
  • 環境にやさしい生物分解される液体石鹸(これ、実は一回も使わずに液漏れでひどいことになり、捨てる羽目になりました)

<その他必要なもの>

  • ベアーキャニスター(JMTハイカーは、食料をすべてこれに入れなければなりません。これが装備計画とパッキング段階でかなりの頭痛の種になるのですが、これについては食料計画の項でお話ししましょう)
  • カメラ (お古のデジカメと、iPhoneを持っていきます)
  • iPhoneをチャージするための小さなパック
  • パスポート、クレジットカード、アメリカ紙幣
  • メンテナンスキット(予備電池、色々な用途に幅広く対応できる紐、ダクトテープ、スリーピングマットのメンテセット、最小限のファーストエイドキット)
  • スコップ (トイレがない旅、掘って埋めるのがエチケットであり、ルールです)
  • トイレットペーパー (二つ三つ持っていく女性もいるようですが、わたしはひとつだけ。クライミングの日常から、小用のときは自然から枯草や石を失敬して代用する習慣が身についているのです)
  • ゴミ袋 (もちろん持ち込んだものは、すべて持ち帰る、が基本です。合言葉はLeave No Trace。大きくて頑丈なジップロック袋を3枚用意しました)


<ちょっと贅沢品>

  • サンダル (9月は渡渉がほとんどないので、ウルトラライトを突き詰めるのなら、持っていかない決断になりますが、直前まで悩んだ結果、キャンプ時の快適さ、そしてJMT前後の移動時間や町に出るときのことも考えて、2ドルの軽いペラペラのビーチサンダルを持っていくことにしました)
  • サブバック (これも突き詰めればいらないものですが、とっても重宝しました。パタゴニアの、小さく折りたためる軽いサブザックで、飛行機やバスで、キャンプ場からちょっと離れた場所まで洗濯や水を取りに行くとき、そして大きなザックを置いてピークハンティングに行くとき、など大活躍!)
  • 日記帳ペン2本 (薄い軽いノートにすればいいものの、日記は一人旅の間、わたしの心を投影する唯一の記録媒体。ここは奮発して、モールスキンの、しっかりした表紙がついたものを購入しました。このブログは、主にそのページに書き留めた記録からおこしています)
  •  (わたしは本の虫なのですが、心を鬼にして、3週間におよぶ旅に持っていく読書用の本は、小型のもの一冊のみ!今話題の小説を一冊選びました)


装備を整えて、どれだけの量、重さを実際に運ぶことになるか、ということが分かってくると、ウルトラライトという考えの実用性に感心させられます。とにかく軽い!ザックが小さい!歩く距離を考えると随分小型のザックですが、テントポール以外、外付けせねばならない装備は一つもなく、全部詰めてみた様子が下の写真です。




うんうん、これはいいぞ、長い距離、きっと快適に歩けるぞ!


仕上げは、余分な重量をとことん省くこと。『ultralilght backpacking tips』のアドバイスにしたがって、まずはザックの長い余分なストラップをカット。トイレットペーパーの芯はもちろん抜き、ガイドブックと、一冊選んだペーパーバックの本は、最初の前書きやタイトル、最後の索引、著者紹介などのページをすべて切り取りました。お財布はもちろんなし、わたしたちクライマーが「クライマーズウオレット」と呼ぶ、ジップロックバックに、最低限のクレジットカード、アメリカ紙幣、パスポートを入れてお終い。食料はすべて元の包装から取り除き、軽いジップロック袋に詰めなおし。一つ一つは小さな重量でも、チリも積もれば、です。


そして最後に、これまでに連なるアルピニストの歴史と偉業への敬意とともに、仕上げはやっぱりこれ、歯ブラシを短くする!
これは、実際の重量の差うんぬんよりも、ここまでやった、という達成感の問題です。重たい荷物に嫌気がさして、ザックを投げ出したくなるような瞬間に、「できるところまで、とことん削ったんだ」という意識があるかないか、という点が精神にもたらす違いは大きいです。
カナダの夏の長い日照時間が、ようやくゆっくりと終わりを告げようという8月のある日の午後10時ごろ、一人薄暗くなりかけた我が家の庭の森へ、歯ブラシを左手に、巨大な斧を右手に、ちょっと間違えれば通報されるようないでたちで、最後の儀式は行われました。


ドスリ!という鈍い斧の音ともに、JMT準備、最終決戦の火蓋は落とされた!
ちなみに出発直前にヨセミテ国立公園のパーミットセンターで重さをはかってみたところ、総重量は20キロでした。

さて残る旅準備の大きな要は、食料計画…。